公開日:2025年8月5日

「開館30周年記念 未来/追想 千葉市美術館と現代美術」レポート。草間彌生や河原温も。戦後日本美術を楽しく学び、未来を指向する

会期は8月2日〜10月19日

会場風景より、中央は草間彌生《最後の晩餐》(1981)

千葉市美術館が30周年

千葉市美術館で、現代アートのコレクションにフォーカスした展覧会「開館30周年記念 未来/追想 千葉市美術館と現代美術」展が開幕した。会期は8月2日〜10月19日。企画は同館学芸員の森啓輔。

1995年に開館し、今年で30周年を迎えた千葉市美術館は、コレクションを3つの収集方針「千葉市を中心とした房総ゆかりの作品」、「近世から近代の日本絵画と版画」、「1945年以降の現代美術」に沿って収集してきた。本展では、美術館の建築が着工した1991年から継続して収集されてきた現代美術のコレクション約1800点のうち1割にあたる約180点を精選し、戦後美術の多様な展開をたどる。

「1. 具体美術協会」会場風景より、中央は田中敦子《Thanks Sam》(1963)

見どころ:戦後美術史を立体的・多角的に体感する

本展の特徴として、森学芸員は「ひとりの作家の作品を複数点紹介している」ことをあげる。たとえば草間彌生は全19点(寄託1点)、河原温は「Today」シリーズ含む20点を展示しており、それぞれの展示室はちょっとした特集展示や個展のようで充実感がある。

「8.草間彌生」の会場風景
「8.草間彌生」の会場風景
「8.草間彌生」の会場風景

同館の現代美術に関連する展覧会はこれまで120を超え、そうしたタイミングで重要な作品が収集されてきたというその歩みを感じられる。

また、今回は戦後美術が盛り上がりを見せた1950年代から、同館が開館した1990年代に発表された作品が中心に選ばれている。展覧会を通して、日本の戦後美術史の流れを実際の作品とともにたどれるようになっており、現代アートファンはもちろん、これから学びたい、知りたいという学生さんたちにもぜひおすすめしたい展覧会だと感じた。

「2. 桂ゆき」会場風景

展覧会は8階と7階にまたがり、全体の構成は17章。前半は「1. 具体美術協会」「2. 桂ゆき」「3. 実験工房」など、戦後の前衛を牽引したグループや作家ごとにまとめられている。

工藤哲巳《あなたの肖像》(1966)や荒川修作《もうひとつのテクスチャー 2》(1960)など視覚的にインパクト大な作品も登場。ほかにも瀧口修造、赤瀬川原平 、三木富雄など重要アーティストの作品が並ぶ。

「3. 実験工房」会場風景より、福島秀子の作品
「5. 反芸術・読売アンデパンダン展(荒川修作、工藤哲日ほか)」会場風景
「5. 反芸術・読売アンデパンダン展」会場風景より、左は工藤哲巳《あなたの肖像》(1966)
「10. イサム・ノグチと大谷幸夫」会場風景

本展は日本の作家に限らない。「7. 拡散する美術ー1960-70年代のアメリカ美術を中心に」では、ニューヨーク拠点で活躍した桑山忠明のほか、アメリカ美術の潮流とそこからの影響関係を紹介しながら、ダン・グラハムやダニエル・ビュランらの作品を展示する。

「7. 拡散する美術ー1960-70年代のアメリカ美術を中心に」会場風景
「7. 拡散する美術ー1960-70年代のアメリカ美術を中心に」会場風景

7階に降りると、河口龍夫の圧巻の展示室が広がる。26枚の写真パネルからなる《陸と海》(1970/1992プリント)は、戦後の重要な展覧会として位置付けられる第10回日本国際美術展「人間と物質」で発表された作品。陸と海の境界となる砂浜に置かれた板が、満潮と干潮の影響を受け揺らぎ続ける姿をとらえることで、壮大な時間の存在を表現した。

「11. 河口龍夫」会場風景

「人間と物質」のコミッショナーを務めた美術評論家の中原佑介は、同展で、人間と物質の「間」に着目し、従来とは違うかたちでその相互作用を追求した。《陸と海》制作当時の河口も人間を中心とする認識から離れ、人間とそれ以外の事物が等価となる世界観が、作品に明確に現れていたという。こうした世界の認識は、人間と非人間(ノンヒューマン)の関係性を探り、人間中心主義を脱したものの見方を探究する、現代的な思想や哲学とも響き合う。半世紀前の作品が、現代においても新鮮に感じられる。

展覧会の後半は、近年の収蔵作品として目[me]、Nerhol、吉田志穂といった現代作家の作品を紹介するセクションを経て、「13. 中西夏之」、「15. 辰野登恵子と吉澤美香」といった展示室が続く。辰野と吉澤の展示室は、それぞれ個性が異なる作家でありながら、面白い調和が生まれているように感じた。

「15. 辰野登恵子と吉澤美香」会場風景
「15. 辰野登恵子と吉澤美香」
「15. 辰野登恵子と吉澤美香」

「16.杉本博司」の展示は、1996年に開催された同館開館記念第2弾「Tranquility―静謐」展での杉本作品の再現となっている。同館がコレクションを重ねてきた時間を感じることができるだろう。

「16.杉本博司」会場風景

「未来」というテーマ

同館の構想が練られていた1991年に発表された『千葉市立美術館構想』には、千葉市が東京と成田空港の中間地点であることや、幕張メッセや千葉港を擁することから「国際都市」へと着実に歩んでいるとしつつ、「現代から未来を指向し、国際的視野から市民の美意識を育てる質の高い美術館にする必要がある」との文言がある。

このように、「未来を指向」することは、同館設立からの重要な理念であった。こうした歴史的背景もあり、本展は「未来/追想」というタイトルが付けられている。

河原温《百万年–未来》(1983)は、「未来を指向」するという点で象徴的な作品だ。10冊の書物による作品で、そこには1984年から百万年後の1001983年までの年号が記されている。

「Today」シリーズが表現する日常的な「時間」と、《百万年–未来》が示す宇宙規模の「時間」。河原の作品からは、過去から未来へと至る時間の様々な位相について想像が促される。

「14. 河原温」会場風景より、河原温《百万年–未来》(1983)
「14. 河原温」会場風景
「14. 河原温」会場風景

さや堂ホール」での「超克するかたち 彫刻と立体」再現展示

最後に、見逃してはならないのが1階「さや堂ホール」だ。ここでは1997年に開催された企画展「超克するかたち 彫刻と立体」の再現展示が行われている。斎藤義重、菅木志雄、小清水漸らの作品が、天井高のある空間を活かして展示されている。ここでも同館の企画展やコレクションの歴史をかいまみることができるだろう。

「17. 超克するかたち 彫刻と立体」再現展示
「17. 超克するかたち 彫刻と立体」再現展示
「17. 超克するかたち 彫刻と立体」再現展示
「17. 超克するかたち 彫刻と立体」再現展示

さらに、本展をさらに“ひらく”、ふたつのプログラム・イベントも実施。アートコレクティブSabbatical Companyによる「Fancy a Picnic? OR Fancy an Archive? ピクニックしたい?アーカイブ見てみない?」は、7階に美術館のアーカイヴに多様に触れる特別な空間を生み出した。

Sabbatical Company「Fancy a Picnic? OR Fancy an Archive? ピクニックしたい?アーカイブ見てみない?」

人気マンガ家の西島大介は自作のゲームを発表する「さいばぁぱんく:千葉市美術館」を展開。来場者がオリジナルゲームを体験できる。連動したNFTデジタルスタンプラリーも館内で実施中なので、こちらも合わせて楽しみたい。

本展は関連イベントも充実しているので、詳しくは公式サイトを確認してほしい。

西島大介「さいばぁぱんく:千葉市美術館」

また、千葉市美術館の名物と言える参加・体験型のアーティストプロジェクト「つくりかけラボ」も、現代アートに関する同館の取り組みとして要注目だ。現在は「つくりかけラボ18 池田光宏|きっとこれも誰かの仕業」が開催中(9月28日まで)なので、こちらも合わせて訪れてほしい。

「つくりかけラボ18 池田光宏|きっとこれも誰かの仕業」会場風景

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。