「1点だけをじっくり見る展示があってもいい」。野村郁恵×USUGROW×IMAONEが語る、“癖”のある7作家の「七癖 – NANAKUSE –」展(文:中島良平)

DIESEL ART GALLERYで開催中の「七癖 – NANAKUSE -」展は、グラフィティなどのストリートカルチャーを背景に持つ7人のアーティストによるグループ展だ。キュレーションを行った新虎画廊の野村郁恵、USUGROW、IMAONEの3人に話を聞いた(撮影:中島良平 [*]は除く)

左から、USUGROW、野村郁恵、IMAONE

東京・渋谷のDIESEL ART GALLERYで10月15日までグループ展「七癖 – NANAKUSE -」が開催されている。キュレーションを行ったのは、新橋・虎ノ門エリアで「作品1点で見せる」という明快なコンセプトのもと、複数名のクリエイターが自主運営する新虎画廊。これまでに新虎画廊で個展を開催した6名(USUGROW、IMAONE、大友昇平、NISHI、FATE、SNIPE1)に、2025年9月に開催を予定するTENGAONEが加わり、7名が出品している。

会場では、それぞれが主題となる1点を軸に、そこに至る思考の痕跡(制作ノート、ドローイング、関連作品など)を交えながら展示を構成する。グラフィティ、ヒップホップ、パンク、スケートボーディングなどのカルチャーからの影響を感じさせる作家が、それぞれに表現を拡張し、個性を磨いてきた様子が見えてくる「七癖 – NANAKUSE -」展。新虎画廊を運営する建築デザイナーの野村郁恵、野村とともに同画廊の運営に携わり出品作家でもあるIMAONEとUSUGROWの3名にインタビューを行った。

「作品1点で見せる」、異色のギャラリー・新虎画廊ができるまで

──新橋・虎ノ門(新虎エリア)というビジネス街でストリートカルチャーの影響を感じさせるアーティストが個展を開催するという新虎画廊のキャラクターと、「作品1点で見せる」というコンセプトはとても異彩を放っていると感じます。立ち上げた経緯についてお聞かせいただけますか。

野村郁恵(以下、野村) もともと新虎エリアに私のデザインオフィスがあり、このエリアをアートやデザインで盛り上げたいという思いがあって、オフィスなどの設計をする際にアーティストを起用していました。その流れで、私の借りているビルの空いているフロアにアーティストを呼んでアトリエとして使っていただいたり、作品を展示してもらったりできればと考えて、最初に声をかけたのがIMAONEさんでした。そして、シェアアトリエのようなものを始めたのですが、ビルの1階に倉庫として使っている元バーだったスペースがあったので、ちょうどコロナ禍のときに、みんなでDIYでそのバーを壊したり壁を塗ったりしてホワイトキューブを作り、作品を展示できるようにしたのが始まりです。

IMAONE 最初はスペースも時間もあるのでやってみようという感じで、自分がその頃、USUGROWさんと会う機会がすごく多かったので声をかけてみたんです。そうしたら、参加してくれることになって。

USUGROW 単純に「スペースがあるのに遊ばせておくのはもったいないよね」となって、何か面白い使い方ができるんじゃないかなと思ったんですよ。

「七癖 – NANAKUSE -」展エントランスには、新虎画廊の床の間の仕切りを同じサイズで再現した壁を設置
過去に新虎画廊で行われた展覧会を撮影した写真も展示

──当初から「作品1点で見せる」をコンセプトとしていたのですか。

IMAONE いや、最初はいまとは違うビルのスペースを使っていて、1点ではなく、いわゆるマルチスペースとして始めました。USUGROWさんに1回目の展示をしてもらって、2回目として声をかけたのが今回の展示にも参加している大友昇平でした。床の間を作って、そこに作品1点だけを展示したいと昇平が言ったので、自分たちでガチの床の間を作ったんですよ。そうしたらなかなか昇平が作品を完成させなくて。結局、作品は未完成だったんですが、「もう床の間を壊す」とブチギレる郁恵さんをなだめつつ(笑)、昇平には映像を作ったりスケッチをかき集めたりしてもらって、どうにか個展に着地させました。

「七癖 – NANAKUSE -」展示風景より、大友昇平の作品
メインの作品が完成するまでのプロセスをあわせて展示

野村 それからNISHIさんにも個展をやってもらって、前のビルから引っ越すことになったんですね。新しいスペースは四畳半ぐらいの狭さだったので、その空間であれば、昇平さんの個展のときと同じように床の間を作って、1点を展示するというコンセプトにしたら効果的なんじゃないかと考えました。

IMAONE そのタイミングで、もともとは昇平のコンセプトだったので、せっかくだからギャラリーの運営に加わってもらって、現在は4人で運営しています。

1点の作品と、元ネタやそこに至る思考の痕跡を展示

──そして、新虎画廊でこれまでに個展を行った6名と、これから開催する1名の計7名でのグループ展がDIESEL ART GALLERYで開催されることになったんですね。

IMAONE そうですね。「なくて七癖」じゃないですけど、みんな癖のあるアーティストたちなので、「七癖」展にしようと。

野村 私はギャラリーを始めたことがきっかけで知り合ったアーティストさんもいて、床の間のある狭いスペースにどう挑戦してくれるか、みたいなものを感じながら、それぞれの癖を楽しんできました。意外と内面は乙女のような方が多かったり、FATEさんの作品からは細やかさや緻密さが感じられたり、NISHIさんのように、吸い込まれるような絵から黒いマッドな怖さみたいなものが伝わってきたり。

USUGROW NISHIさんもキャラクターは乙女ですよ(笑)。

IMAONE レジェンドなんですけどね(笑)。でもみんなそれぞれの癖があって、それがDIESEL ART GALLERYのひとつの空間に集まるのは面白いと思って、みんなに主題となる1点の作品と、それに関連するものを展示するというルールを伝えて、制作してもらいました。

「七癖 – NANAKUSE -」展示風景より、NISHIの作品
「七癖 – NANAKUSE -」展示風景より、FATEの作品

USUGROW 最近はソーシャルメディアでアーティストが作品について語ることも増えていますよね。そうやってソーシャルメディアで広がるのもいいと思いますが、なんでも説明が多すぎるような気がしていて。そうではなく、ソーシャルメディアで言葉と画像で説明するように、実際にギャラリーに来て、作品の実物をよく見てもらって、そこで作品の元ネタやコンセプトを知ってもらうのも面白いんじゃないかと思ったんです。

「七癖 – NANAKUSE -」展示風景より、USUGROWの作品
USUGROWとバンドの世界観が展示において融合する

──出品作家でもあるおふたりは展示プランをどのように考えましたか。

USUGROW コンセプトを考えて、スケッチなどをしながら作品を仕上げるのは普段通りなんですが、今回出品する作品は、友達のバンドのLPのジャケットデザインの原画なので、展示にアルバムのコンセプトのことなども加えました。元ネタとなるものを作品とあわせて知ったり、どういうバンドなのかが歌詞などから伝わったり、そういう展覧会の楽しみ方があってもいいんじゃないかと考えました。

IMAONE 僕はルールにしっかり則って、新作1点と、それにまつわるスケッチ、習作を出そうと、どストレートに考えて自画像を描きました。今回の展示では、各アーティストの展示の横にあるタブレットでインタビュー映像が見られるようになっているんですが、これは、参加アーティストが全員面白い人たちなので、それぞれ制作の背景なども見せたいと思って全員分の映像を作りました。

「七癖 – NANAKUSE -」展示風景より、IMAONEの作品
IMAONEは自画像に用いたビールケースの上にドローイングのファイルを展示。作品には、「待つ」姿勢に宿る静かな力を表現した

ストリートカルチャーから派生した各アーティストの“癖”

──DIESELというストリートカルチャーと結びついたブランドのギャラリーで展示することで、「七癖 – NANAKUSE -」の参加アーティストをかたちづくるバックグラウンドも浮かび上がってくるように感じられました。

USUGROW 僕らはストリートと言われるところにいるかもしれないけど、本人たちが自覚的にそこにいる感覚はあまりないんですよね。

IMAONE それぞれストリートからの影響はあるかもしれないけど、たとえばSNIPE1さんのように現役でゴリゴリのグラフィティライターの人もいれば、TENGAONEさんのようにギャラリーに所属してハイアートに行っている人もいますし。

「七癖 – NANAKUSE -」展示風景より、左がSNIPE1、右がTENGAONEの作品

USUGROW バックグラウンドにグラフィティがあったり、ファッションや音楽とリンクしていたりという共通点はあるけど、みんながそこからそれぞれどういうふうに舵を切っているのかは結構違いますね。街に居続ける人もいればギャラリーに行く人もいるし、インディペンデントで活動する人もいる。ストリートから影響を受けてどう派生していったかが面白い。そこも癖なんですよ。それぞれのスタンスが違っている。で、みんななんとなく地味というか、あまり自分から発信しない人たちが集まっていて(笑)。

音楽も絵を描くことも服を作ることも、あまり境目がないですよね。人と協力して何かを作るやり方も当たり前になっていますし。「アートとファッションの融合」とかよく言われるけど、何をいまさら?という気もします。お互いにできることをやって、合わさると何か面白いことができるということを感覚的に知っているから。

IMAONE それぞれ癖があるから交わりにくいメンツではあるんだけど、お互いのリスペクトはあるから、やるとなればやってくれる(笑)。TENGAONEさんは会場でみんなの作品を見て、「もっと描き込まないとヤバい」と言って搬入後にも加筆していましたし、今回の展示でも見えないところでの切磋琢磨もあるわけです。

──癖のある7名の展示が組み合わさるからこそ、それぞれの個性が際立っていると感じました。

USUGROW いまはアートが手に届きやすくなって、展示も多いですし、作品もネットで買えるなどして広がっていますが、一つひとつがインスタントにすごい勢いで流されていっている気がするんです。そのような状況のなかで、今回の展示みたいにひとつの作品をじっくり見て、そのアーティストに興味を持ってもらうような感覚を持てる場があってもいいと思うんですね。レコードでゆっくり音楽を楽しむ、じゃないですけど、そういう時間も取り戻せたらいいですよね。

野村 本当にそうですね。新虎画廊としても、1点に集中して楽しめる展示をコンセプトとしていますが、日本にはもともと多くの家に床の間があって、そこに旬のものを飾ってお茶を点てて楽しむような文化があったわけですよね。そういう感覚でアートを愛でる時間を持ってもらえたら嬉しいですね。

グループ展の開催を記念して、新虎画廊の監修で七味唐辛子を制作。ハバネロやペパーミントの入った特製で、和洋を問わず楽しめるスパイスだ
8月16日から販売開始した新虎画廊制作によるZINE『七癖 – NANAKUSE -』 (*)

IMAONE 自分としては今回作った七味唐辛子もめちゃくちゃ美味しいので推したいんですけど、それはいいとして(笑)、作品はもちろんですが、一人ひとりのキャラクターが展示ごとに如実に表れていて、その人間性にも興味を持ってもらいたいですね。

──「七癖 – NANAKUSE -」展の終盤となる9月には、新虎画廊でTENGAONEさんの個展も開催されます。今後の画廊としての展望も聞かせてもらえますか。

野村 やはり「1点の展示」というコンセプトがあるので、展示するアーティストの方々には、1点だからできることにチャレンジしてもらいたいですね。たとえば、大友昇平さんは基本的にボールペンで描かれているんですが、1点であるならばアクリルでも使ってカラーで描いてみようかな、とか、1点だから挑戦できることを試してもらえる場にしたいです。それがアーティストの可能性を引き出すことになれば、新虎画廊という場所ありきの展開になると思うので、そういう画廊にしていきたいと思っています。

展覧会の公式ページはこちら

野村郁恵(のむら・いくえ)
建築や工学の領域でアメリカ、イタリア、ドイツ、オーストリアで経験を積み、2010年に帰国後、東京のゲンスラー アンド アソシエイツ インターナショナル リミテッドに入社。2011年にはThe International Union of Architects(UIA)の東京大会(The 24th World Congress of Architecture)の国際特派員を務める。2015年にMakeshift に入社。同社ではこれまでに Pinterest、Stripe、Spotify、Kickstarterなどの日本オフィスの設計を手がける。現在、代表取締役兼空間デザインコンサルタントとして様々な業種のクライアントをサポートする。

USUGROW
1990年初頭、音楽シーンのフライヤー製作からアーティスト活動を始める。イラストレーション、カリグラフィ、ペインティング、ミューラル等、手法、媒体を超え制作活動を展開。身辺の事象を線と点を用いて視覚に翻訳する。

IMAONE
1980年東京生まれ。壁画を軸に活動するアーティスト。絵画やデザイン、ディレクションまで領域を横断している。オリジナルキャラクターや独特の世界観、繊細な描写を特徴とするスタイルは、国内外で支持を集めている。デザインの現場で培ったスキルをもとに、媒体やジャンルにとらわれない柔軟な表現を展開。アーティスト・コレクティブ「THA」の代表として、日本橋のスタジオを拠点に、大型ミューラルの制作から企画立案・実行までを手がける。また、作品一点を見せることにフォーカスしたコンセプト・ギャラリー「新虎画廊」の運営にも携わり、作品と場の両面からアプローチしている。

中島良平

中島良平

なかじま・りょうへい ライター。大学ではフランス文学を専攻し、美学校で写真工房を受講。アートやデザインをはじめ、会社経営から地方創生まであらゆる分野のクリエイションの取材に携わる。