パープルームギャラリー ダイエー海老名店 中央は梅津庸一
8月14日、日本のアート界に激震が走った。美術家・梅津庸一が主宰を務める「パープルーム」が、ダイエー海老名店にパープルームギャラリーをテナント出店すると発表したのだ。
(【速報】
— パープルーム|(梅津庸一) (@parplume) August 14, 2025
ついに完成しました!
この度、パープルームはダイエー海老名店にテナント出店することになりました。海老名駅のコンコース直結という好立地。
今後はパープルームギャラリーの店長として店頭に立ちます。いらっしゃいませ!
オープンは8月25日
※詳細はまたお知らせします) pic.twitter.com/1KzEdbZJ0S
奇しくも前日から、イオンモールの存在に象徴されるような「地方都市」と「美術」について、SNS上で大きな話題となっていたタイミングだった。そこにきて、イオンの完全子会社であるダイエーで、現代アートのギャラリーをアーティストがオープンさせるとあって、その意外な組み合わせへの驚きと、彼らを知る人々からの「さすがパープルーム」という称賛とが、SNS上で広がっていくのを目撃した。
そしてオープン日となる8月25日、期待を胸にダイエー海老名店を訪ねた。
海老名駅から歩道橋で接続されアクセス抜群。神奈川県の中央に位置する海老名駅周辺は、1993年に日本初のシネコンとされるワーナー・マイカル・シネマズ(現イオンシネマ)一号店が開業し、2002年には複合型商業施設「ViNAWALK」がオープン、東京・横浜のベッドタウンとして発展してきた。これらに先駆けること1984年に海老名ショッパーズプラザとして開業したダイエー海老名店は、2006年の大規模改装を経て、40年以上にわたり地域の人々の生活を支えてきたことになる。
1階にはスーパーとフードコート。フードコートは夏休みということもあって学生らが集まり大繁盛している。
2階には大手100円均一ショップと西松屋があるほか、法律事務所なども店を構えており、若いファミリー層からお年寄りまで様々な人が行き来している。そんな100均のお向かい、大人の女性向けブティックのお隣に、パープルームギャラリーは誕生した。
こけら落とし展「表現者は街に潜伏している そして、ショッピングセンターは街そのものである」は、20〜90代の約40作家の作品を紹介。これまでパープルームと伴走してきたアーティストをはじめ、地元ゆかりのアーティストなどが一堂に会し、祝祭的な雰囲気に包まれていた。
なかには、アーティストの中ザワヒデキが高校1年生の頃に制作した油絵という貴重作品も展示され、同じくフランス近代絵画に影響を受けた安藤裕美の作品と並ぶことで不思議なつながりが生まれていた。そのあいだには、梅津が購入したフランスのアンティークのドアも設置されている。そのほか、梅沢和木、平山昌尚、だつお、西島大介らが名を連ねる。
12時のオープンからお客さんが続々と集まり、常時数名〜10名ほどが作品を見ていた。軒先を飾るお祝いの花々からは、コレクターや関係者らからのパープルームへの応援の気持ちが感じられた。
2014年に梅津を中心に結成された美術の共同体「パープルーム」は、当初は主に「美術予備校」を標榜し、共同生活を送るメンバーの入れ替わりを経ながら、展覧会の企画など多様な活動を展開してきた。
2018年には相模原市にパープルームギャラリーをオープン。ホワイトキューブのギャラリーとして、既存のアートシーンからすれば未知のアーティストの発掘とも言えるような個展から、梅津らの関心や問題意識を反映したテーマのグループ展まで、30を超える多彩な展覧会を開催。作品の売上は100%作家自身に入り、ギャラリーは手数料を取らないという方針、運営はパープルームメンバーが担い、毎回充実した冊子も制作されるなど、ほかにないオルタナティヴな活動はたびたび話題を呼んできた。
2023年末に相模原のギャラリーをクローズし、一時は立川への移転なども検討されたものの計画は立ち消え、昨年末にはYouTubeで「チャレンジング」な次なる一手を模索していると明かされていたが、それが結実したのが今回のダイエー出店だ。「運営は店長である梅津庸一と副店長の安藤裕美が担います。そして弊廊はいわゆるコマーシャルギャラリーではありません。作品販売は行いますが、ゲスト作家からマージンは取らず梅津と安藤の作品の売り上げによって経費を賄います」(ステートメントより)という運営方針には、「それで続けられるのか?」と心配になると同時に、自立しているからこそ自由で面白いことがここで起こりそうだ、という期待も高まる。
近年は大阪の国立国際美術館での個展をはじめ、作陶や版画制作など各地で精力的に制作・発表を重ねる梅津。そのアーティストとしての態度は、つねに「美術制度」への批判的な眼差しに貫かれ、既存の美術教育やマーケットに頼らない独自の活動を展開してきた。制度を批判するだけなら誰にでもできるが、それに対抗し、新しい視点を提示する「行動」を実行するのは難しい。行動し続けるとなるとなおさらだ。今回のダイエー出店は、そうした梅津とパープルームの身を切る行動力を体現していると同時に、メタ的な美術制度批判にとどまらない、より素朴で切迫した熱意によって駆動しているように感じた。それは、ステートメントにもある「日々の暮らしと美術が文字通り地続きであることを体現したい」という思いだろう。
日々の暮らしを考えるうえで、ショッピングセンターより適切な場所があるだろうか?
Tokyo Art Beatでは、アーティストで「郊外」をテーマに多様な活動を行なってきた中島晴矢を聞き手に迎え、梅津へのインタビューを行なった。海老名という街や今回のダイエー出店へと至る思いなどが語られているので、公開をお楽しみに。
そして足を運べる方はぜひ海老名へ。ダイエーの醸し出す圧倒的な生活のリアリティ、そこに突如現れた現代アートギャラリーの存在感を、ぜひ肌で感じてほしい。
福島夏子(編集部)
福島夏子(編集部)