ダリのパフォーマンスへのオマージュとして制作された作品 OMAR AQIL'S ILLUSTRATION, INSPIRED BY THE GLORIOUSLY ECCENTRIC, CAULIFLOWER-FILLED PHANTOM MOMENT.
2025年に誕生100周年を迎えるロールス・ロイスの最高峰のモデル、「ファントム」。この記念すべき年に、ロールス・ロイスは現代アート界との1世紀にわたる深い関わりを振り返っている。ファントムとアーティストたちの物語は、まさに20世紀アート史の裏面史ともいえる興味深いエピソードに満ちている。
ロールス・ロイスは創業以来、サルバドール・ダリ、アンディ・ウォーホル、アンリ・マティス、パブロ・ピカソ、セシル・ビートンなど、20世紀を代表する巨匠たちに愛用されてきた。とくにユニークなのが、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ初の女性正会員となったデイム・ローラ・ナイト。彼女はロールス・ロイスを移動式アトリエとして使用し、エプソム競馬場やアスコット競馬場で車内から絵を描いていたという。
アーティストだけでなく、ジャクリーン・ド・ロスチャイルド、ペギー・グッゲンハイム、ネルソン・ロックフェラーといった世界的なアートコレクターたちもロールス・ロイスに魅了された。
実際、ファントム自体も美術館に展示される芸術作品として認められており、ロンドンのサーチ・ギャラリーやニューヨークのスミソニアン・デザイン博物館をはじめ、世界中の美術館から独立系ギャラリーまで幅広く展示されてきた。100年にわたって近代史に名を残すクリエイターたちに所有され続けたファントムは、もはや文化的アイコンとして位置づけられるだろう。
そんなアーティストとファントムの関係でもっとも語り継がれるのが、ダリが1955年にパリ・ソルボンヌ大学での講演で見せた伝説的パフォーマンスだ。友人から借りたブラック&イエローのファントムに500kgものカリフラワーを詰め込み、パリの街を疾駆。大学前でドアを開け放ち、冷たい12月の地面にカリフラワーを雪崩落とすという衝撃的な演出は、シュルレアリスムの真骨頂として美術史に刻まれている。
このダリのパフォーマンスへのオマージュとして、このたびロールス・ロイスは現代アーティストに依頼し、風変りなカリフラワーに埋め尽くされたファントムの光景に着想を得たオリジナル・アート・ワークを制作。
ダリのファントムへの愛着はこれだけにとどまらない。1975年に制作したエッチング作品《マルドロール:ロールス・ロイスと氷の風景》でもファントムを題材にしている。ロートレアモンの『マルドロールの歌』の挿絵シリーズの一環として制作されたこの版画では、荒涼とした氷の大地に取り残され、孤独のなかで凍てついたファントムが描かれ、華麗さと不条理を対比させるダリ特有の感性が表現されている。
いっぽう、ダリと違って、ウォーホルは実際に1937年製のファントムを所有していた。1972年、スイスのエージェントとチューリヒを訪れた際、アンティークショップでこのモデルを偶然発見。その場で購入してニューヨークに輸送し、1978年まで愛用した後、友人でマネージャーのフレッド・ヒューズに譲り渡した。ポップアートの巨匠もまた、ファントムに魅了されていた。
ファントムと芸術の関係は、じつはその誕生から始まっている。1911年からすべてのロールス・ロイスに付けられている象徴的なマスコット「スピリット・オブ・エクスタシー」こそが、芸術作品なのだ。
制作者はロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで学んだアーティスト、チャールズ・ロビンソン・サイクス。ルーヴル美術館の《サモトラケのニケ》からインスピレーションを得ながらも、より幻想的で繊細な存在として表現した。そのため、1948年にロールス・ロイスが自社生産を始めるまで、すべてのファントムオーナーは知らず知らずのうちにサイクスによるオリジナル作品を所有していたことになる。
ファントムはクリエイターやコレクターにとってたんなる移動手段ではなく「キャンバスであり触媒」として機能し続けている。時代を超えて個人の想いを映し出し、確固たる意志を宿した希少な表現媒体として、次の100年もまた、未来を見据える思想家たちにインスピレーションを与え続けることだろう。