「ピクチャレスク陶芸 アートを楽しむやきもの―「民藝」から現代まで」会場風景より
東京・パナソニック汐留美術館にて、7月12日から「ピクチャレスク陶芸 アートを楽しむやきもの―「民藝」から現代まで」が開催される。会期は9月15日まで。
「ピクチャレスク」は、「絵画的な」「絵画のように美しい」といった意味を持つ美術用語。陶芸と絵画的表現の交差に焦点を当てる本展は、1880年代から1980年代生まれの作家たちによる約120点を展示する。富本憲吉やバーナード・リーチ、北大路魯山人、河井寬次郎、ルーシー・リー、桑田卓郎など、近現代の国内外50名の表現を通じて、「芸術表現としての陶芸のすがた」を色彩やかたち、マチエールといった視点からひもといていく。
プレス内覧会に登壇した担当学芸員の川北裕子は、近年、現代の陶芸が従来の陶芸とは異なる文脈で紹介されることも多く、陶芸をめぐる様々な"越境”を目の当たりにする機会が増えたことが本展の企画の背景にあると説明。異分野・異文化との接触のなかで展開してきた陶芸に、絵画との関わりに注目しながらあらためて光を当てる展覧会となっている。
展示は「絵画と交差する陶芸」「陶に描くこと」「色彩のめざめ」「マチエールのちから」「かたちの模索」「うつわの表象」「モチーフを表す」「往還する平面と立体」「焼成と形象」の全9章構成。概ね時系列に沿い、多彩な視点と表現の変遷を紹介する。
展覧会は、日本とも関わりの深い、イギリスを代表する陶芸家バーナード・リーチの作品からスタート。線の描き方に注目し、ドローイングと陶器を展示することで、展覧会のテーマである「陶芸と絵画的表現の交差」を見せる。
続く展示では、日本における個人作家による陶芸創作の幕開けを紹介。日本において、既存の図案の模倣ではなく、自身の美意識や感覚に基づく個人主義の工芸家たちが出現し始めたのは、20世紀初頭のこと。富本憲吉は、身近な風景や植物のスケッチをもとにオリジナルの模様を創出。北大路魯山人は、多様な釉薬を駆使しながら独自の筆致を確立した。
次に展開されるのは、柳宗悦らとともに民藝運動を推進した河井寬次郎、濱田庄司らによる、色彩そのものを主役とした表現。立体感のある動植物の色彩表現が際立つ河井の後期の作品群や、赤、緑、茶色の釉薬がほとばしる打薬の技法を用いた《三色打薬貼文扁壺》、計算された色面に赤や緑の描線が躍動する濱田庄司の《柿釉赤絵角瓶》などが並ぶ。
ここではまた、アンリ・マティスやジョルジュ・ルオーもあわせて絵画も展示される。川北学芸員によれば、こうした絵画との競演は、絵画が陶芸家たちに与えた影響を示すだけでなく、「絵画作品もある種の三次元的な物質であるという見方ができるのではないか」という考えから、展示空間に新たな共鳴を創出するねらいがあるという。
焼成の違いなどがもたらす質感の表現=マチエールに焦点を当てた章では、表面のざらつきや凹凸と色彩の融合によって生み出される複雑な器の表情が見どころとなる。北大路魯山人に加え、加守田章二、内田鋼一などの作品は、見るだけでなく、思わず触れたくなるような感覚を呼び起こす。
色や装飾だけでなく、陶磁器の形態そのものを探求した作家の表現にも注目する。栗木達介や加守田章二は、形態と模様の関係を独自に追求した。また戦後、陶芸の展開においていかに空間と対峙するかという視点をもたらした存在として、イサム・ノグチ、ルーチョ・フォンタナの作品も展示。彫刻や建築とも交わる造形表現の広がりを感じさせる。
展覧会後半では、イギリスやデンマークなど海外の作家にも光が当たる。ルーシー・リーの《溶岩釉スパイラル文花瓶》は、ピンクやブルー、茶などの色が柔らかなスパイラル模様を作り出し、静謐な美しさを湛える。また、果物のような有機的なフォルムと深みのある色の釉薬の流れが独特の存在感を放つアクセル・サルトの作品など、多様な「うつわ」に焦点を当てながら作品を紹介する。
加えてここでは、シンプルな白い陶器を集合的に並べ、ジョルジョ・モランディの静物画のような構図を作り出すグイン・ハンセン・ピゴット《白い信楽の道》、フレームのなかに複数の白磁を配置したエドモンド・ドゥ・ヴァール《あるがままの》など、器によるインスタレーションの表現や、陶芸と絵画の関わりにおける新たな可能性にも目を向ける。
展示はさらに現代の作家へと続き、陶磁器の技法や特性を活かして具象的なモチーフや表現に挑んだ作品を紹介。かわいらしいスイカのかたちをした水瓶の作品は、色絵の装飾を西洋美術のモチーフに転用した松田百合子による《西瓜水瓶(フリーダ・カロへのオマージュシリーズ)》。松田は、フリーダ・カーロの果実やマン・レイの人物の肢体、葛飾北斎の富士山などをインスピレーション源に、それらを立体によって文様化したユーモラスな作品を生み出す。
さらに中村錦平による〈日本趣味解題〉シリーズ、既存のイメージを転写するグレイソン・ペリーの作品、パブロ・ピカソの人物表現など、モチーフに対する様々な実践が紹介される。
また1960年代から80年代生まれのアーティストによる、二次元と三次元を往還する表現にも焦点を当てる。九谷焼の窯元に生まれた上出惠悟は、「瓷板画」として磁器による平面作品を制作するいっぽう、大学で専攻した西洋絵画の静物画の関心から生まれた〈静物〉シリーズを発表。〈静物〉では口が塞がれた白磁の湯呑みや器が静物画のように配置されており、見慣れた器の姿を問い直す。
このほか、三島由紀夫の小説『金閣寺』やゴッホの《ひまわり》に着想を得たという川井雄仁、田淵太郎の器をモチーフに、クローズアップでとらえた器のイメージを再構築して描く岡本尚子らの作品が紹介されている。
そして最終章では、「土を焼いて作品を完成させる」工程である焼成にフォーカスし、鯉江良二、桑田卓郎ら現代の作家による焼成と形象のアプローチを取り上げる。鯉江の《土に還る》は、作家の顔を模った石膏型にシェルベン(衛生陶器を粉砕した粒状の材料)を押し固めた作品。だんだんと顔のかたちが崩れ落ちてなくなっていき、やがて最初の状態に戻るという時の流れが表されている。
「絵画的な表現」という切り口を軸に、近代から現代までの陶芸を紹介する本展。時代や地域を超えた作家たちの多様なアプローチを一度に見渡すことができる展覧会になっている。