許豊凡(INI)が見た、「ルノワール×セザンヌ ―モダンを拓いた2人の巨匠」(三菱一号館美術館)。100年以上前の革新から受け取る感性

三菱一号館美術館では、フランス・パリのオランジュリー美術館がルノワールとセザンヌに初めて同時にフォーカスし、企画・監修した世界巡回展が9月7日まで開催中。アート好きとして知られるINIのメンバー、許豊凡(シュウ・フェンファン)とともに展覧会を巡った(撮影:鈴木渉 [*]を除く)

許豊凡。左は、ピエール=オーギュスト・ルノワール《ピアノの前の少女たち》(1892頃)オランジュリー美術館

ピエール=オーギュスト・ルノワール(1841〜1919)とポール・セザンヌ(1839〜1906)。印象派・ポスト印象派のふたりの巨匠に同時にフォーカスした展覧会「ルノワール×セザンヌ ―モダンを拓いた2人の巨匠」が東京・丸の内の三菱一号館美術館で開催されている。会期は9月7日まで。

本展は、パリのオランジュリー美術館が企画・監修した世界巡回展。このたび、日本では唯一の会場となる三菱一号館美術館を、アート好きとして知られるグローバルボーイズグループ・INIのメンバー、許豊凡(シュウ・フェンファン)が訪れた。

ルノワールの桃とセザンヌのりんご

ラジオやブログ、SNSなどで訪れた美術館や展覧会についてたびたび発信してきた許豊凡。仕事の空き時間にも、隙を見つけてはふらりと近くのギャラリーに入り、美術鑑賞を楽しんでいるという。これまで印象派の作品にも親しんできた。

「たくさんではないですが、これまでも印象派の作品は見たことがありました。とくに(クロード・)モネの作品は見る機会が多いかもしれません。展示に行ったり、たまたま訪れた美術館にモネの作品があったり。ポスト印象派だと、以前ゴッホの展覧会に行きました」(許)

ルノワールは印象派、セザンヌはポスト印象派とされることが多く、一見異なる表現を追い求めたようにも思えるが、そんなふたりに同時に焦点を当てているのが本展の特徴。

「ルノワールもセザンヌも1874年に行われた『第1回印象派展』に参加していますが、やがて印象派とは異なる道を進んでいきます。セザンヌは社交が苦手であまり人と交わらなかったことで知られているのですが、ルノワールとは意外な友情で結ばれていたんですね。今回は、そんなふたりの作品を比べて見ることができる展覧会になっています」と話すのは、本展の担当学芸員・岩瀬慧(三菱一号館美術館)だ。

「ルノワール×セザンヌ ―モダンを拓いた2人の巨匠」(三菱一号館美術館)会場にて。三菱一号館美術館学芸員・岩瀬慧(手前)とともに会場を巡る

会場では、代表作を含むルノワールとセザンヌによる静物画、風景画、肖像画、そして両者から影響を受けたピカソの作品など52点の作品を、2階と3階の2フロアにわたって展示している。

展示は3階からスタート。最初の展示室では、花や果物、風景など、同じ画題で描いたふたりの作品が並ぶ。

たとえば花瓶に生けられた花。咲き誇る花々を鮮やかな色彩でいきいきと描いたルノワールに対し、「セザンヌは線がはっきりしていますね」と許。「うまく言葉にできないのですが、不思議な感じがします」と興味深げにふたつの作品を見つめる。

「セザンヌの花瓶は輪郭線で縁取られていて、テーブルの線や後ろの扉の線など、意図的に縦横の線をたくさん走らせているんです。不思議な印象を受けるのは、影がしっかり描かれていなかったり、立体感があるようでないからかもしれません」(岩瀬)

ポール・セザンヌ 青い花瓶 1889-1890 オルセー美術館

さらに岩瀬が「ルノワールの桃は色鮮やかにしっかりと描かれていて、美味しそうに見えますが、セザンヌのりんごはあまり美味しそうには見えないですよね」と問いかけると、許は「たしかに……」と頷きながら、並んで展示されたルノワールの《桃》(1881)とセザンヌの《わらひもを巻いた壺、砂糖壺とりんご》(1890〜1894)を見比べる。

《わらひもを巻いた壺、砂糖壺とりんご》では、テーブルは少し傾いているのに対し、壺は水平に見えるなど、物によって異なる角度で描かれている。

「本当だ。面白いですね。ひとつの絵のなかに違う角度があるというのは、セザンヌの作品でもよくあることなんですか?」(許)

「そうですね。それがゆくゆくは印象派からの独立にもつながっていて。セザンヌは立体感よりも色や形を優先して、自分なりの絵を探究したんです」(岩瀬)

左から、ポール・セザンヌ《わらひもを巻いた壺、砂糖壺とりんご》(1890-1894)、ピエール=オーギュスト・ルノワール《桃》(1881)ともにオランジュリー美術館

セザンヌの独自の表現の探求の表れとして岩瀬が紹介したのが、故郷近くのビベミュス採石場を描いた《赤い岩》だ。青い空、赤い岩、緑の木々を表すのに、一定方向の筆のタッチが機械的に並置されている。

「印象派でこのようにタッチを並べるということはあまりなかったんですか?」と許も興味津々。「並べることはあるのですが、一定方向に揃っているというのがセザンヌなりの表現なんです。珍しいですね」と岩瀬が答える。

ポール・セザンヌ 赤い岩 1895-1900頃 オランジュリー美術館 [*]

「印象派っぽくない」人物画に引き込まれる

つづいては、肖像画の部屋へ。まずはルノワール。

「ルノワールは人物を描くにあたり、はじめは輪郭もあまり線を使わず曖昧に描いていたのですが、やがて人の肌を描くのに行き詰まりを感じてスランプに陥ります。そこで肌にいろんな光や紫などの色を入れて描いたことで批判を浴び、印象派から離れるんです。それにより人物画は古典的な、ラファエロなどに近いような線描芸術に回帰するんですね」(岩瀬)

奥は、ピエール=オーギュスト・ルノワール《長い髪の浴女》(1895頃)オランジュリー美術館

「どうして批判されたのですか?」(許)

「紫など、それまで人の肌には使わないような色が、死体みたいな色だと言われてしまったんです」(岩瀬)

「なるほど。ルノワールの人物はたしかに古典的な絵画のような感じがしますね。人物を描くときに印象派っぽくない手法を使っていたということは知りませんでした」(許)

「ちなみに、ルノワールの人物画で、印象派的に描かれた作品もあるのでしょうか?」との許の質問に岩瀬が紹介したのが、印象派時代に描かれた《若い男と少女の肖像》(1876)。「たしかに、いま見た裸婦像とは結構違いますね」と許は展示室を歩きながらルノワールの人物画を一つひとつ見比べる。

右がピエール=オーギュスト・ルノワール《若い男と少女の肖像》(1876)オランジュリー美術館

優しく親しみやすい印象のルノワールの肖像画とは対照的に、セザンヌは対象から距離をとって描いた。家族を題材にした《セザンヌ夫人の肖像》(1885〜1895)、《画家の息子の肖像》(1880頃)でもモデルの表情は読み取りづらく、厳粛な雰囲気が伝わってくる。

「セザンヌの作品はやはり肖像画の伝統からは逸脱しています。背景に青や緑が入っているのですが、その色を顔にも塗っていたりと大胆です。ポーズもまっすぐ座っているようで、左右が少しずれていますよね」(岩瀬)

ポール・セザンヌ セザンヌ夫人の肖像 1885-1895 オランジュリー美術館

身を乗り出して画面の細部まで見入る許。「肌の色は本当に不思議ですね。ここにも青や紫がある。でもきれいな色」と《庭のセザンヌ夫人》(1880頃)をじっくりと鑑賞する。「背景は全部を塗っていないように見えますが、これもわざとこのようにしているのですか?」(許)、「そうですね。言ってみれば未完成なのですが、セザンヌはそれで完成だよ、と」(岩瀬)

ポール・セザンヌ 庭のセザンヌ夫人 1880頃 オランジュリー美術館

さらにセザンヌが息子のポールを描いた、《画家の息子の肖像》にも興味を引かれた様子。「曲線が印象的ですね。いろんなところに丸みがあって」(許)、「襟や頭の形、撫で肩など曲線が多いですよね。最初に見た花の絵では直線がたくさん引かれていましたが、セザンヌはこうやって幾何学的なものを画面に入れ込んでいたんです」(岩瀬)。

ポール・セザンヌ 画家の息子の肖像 1880頃 オランジュリー美術館 [*]

これまで「どちらかといえば静物画のほうが好き」だったという許。「でもふたりの人物画は印象に残りました。それまでの静物画や風景画とは一味違いますよね。印象派っぽくないというか」

そして次の展示室へ向かうと、「さっきはルノワールの水浴画がありましたが、セザンヌもこのような人物画を描いているんですね」とセザンヌの水浴画の前で足を止める。「ふたりのあいだに描き方の共通点はあまりないのですが、画題やテーマは共通しているものも多くあるんです」と岩瀬。

セザンヌは裸体の写実的な描写よりも画面を厳密に構成することを重視した。「この作品では、三角形の構図に収まるように3人の女性が配されています。そして左の木は女性のポーズと並行して描かれている」との解説に、許は「ああ〜本当だ」と、その計算された構図に感嘆の声を上げる。

ポール・セザンヌ 3人の浴女 1874-1875頃、オルセー美術館 [*]

「セザンヌはタッチだけで形を作ってしまうんです。描く物によってそのタッチや色を変え、それらの微妙なあわい(境界の重なりやゆらぎ)で表現をしました」(岩瀬)

エドゥアール・マネの有名な絵画を想起させる《草上の昼食》(1876〜1877)では、画面に顔を近づけたり離したりしながら作品を鑑賞。「近くで見ると、人なのかどうかもわからないですね。でも離れて見るとシルエットがわかる。面白いですね」と熱心に画面を眺める。

ポール・セザンヌ 草上の昼食 1876-1877 オランジュリー美術館 [*]

ピカソへと受け継がれたふたりの影響に触れる

展覧会はさらに2階へと続く。ふたたび静物画に焦点を当て、花や果物などを描いたルノワールとセザンヌの作品がずらりと並んでいる。そして最後にふたりが20世紀モダンアートの原点として後世に与えた影響に迫る。

ポール・セザンヌ スープ鉢のある静物 1877頃 オルセー美術館

20世紀の巨匠パブロ・ピカソ(1881〜1973)は、ルノワールとセザンヌの作品を所有していたことでも知られている。ここでは、ルノワールの裸婦像、セザンヌの静物画と、ピカソの裸婦像、静物画を並べて見せている。

「ピカソの作品には色々な時代がありますが、1920年代頃、ミケランジェロやギリシャ彫刻、さらにはルノワールからもインスパイアされたのではないかという女性像を描いています。ピカソの静物画も複数の角度の視点があったり、セザンヌのように輪郭線も縁取られていますよね」(岩瀬)

「ピカソにふたりがどんな影響を与えていたのか、とてもわかりやすかったです。セザンヌの静物画もやはり好きですね。りんごが浮いているように見えたり、言葉にしづらい感覚があります」(許)

セザンヌの大胆な表現に受けたインスピレーション

展示を一通り見終えた許は、「ルノワールとセザンヌ、それぞれ対照的な良さがあることがよくわかりました。展示の仕方も、同じテーマに対してふたりの絵が並べられていたので、わかりやすかったです。ルノワールの柔らかい感じと、セザンヌのちょっと独特な部分。その違いが見ていて面白かったですね」と振り返る。

「ルノワールは、僕がこれまでイメージしていた印象派的な作品が多かったように感じました。本当にインプレッション(印象)というか、感じたままの色や光が描かれているようで、温かい雰囲気の作品がたくさんありましたね。

それに対してセザンヌはポスト印象派なので、伝統的な印象派からちょっと外れているというか。線の使い方や、同じ絵の中で違う角度から描かれているということなどはいままで知らなかったので印象に残りました。肌に背景の青色が入っている肖像画なども、現代の自分たちが見たらすごく素敵だなって思いますが、当時の人からしたら大胆な表現だったのかなと想像したりもしました」

とくに心に残った作品を尋ねると、セザンヌの作品を挙げた。

「水浴する人たちを描いたセザンヌのシリーズは印象的でした。人の描き方もそうですし、3人の人物が三角形を作っているという構図も面白いですよね。《草上の昼食》も遠くから見ると人だとわかるけれど、近くで見ると本当にタッチだけで。そのような細かい部分もすごく興味深かったです。

それと、いちばん最初に見た静物画(《わらひもを巻いた壺、砂糖壺とりんご》)。たしかに言われてみれば、テーブルとそこに置かれた壺が違う角度から見られているように感じて、ハッとしました」

許はINIの活動において、歌やダンスのみならず、楽曲の作詞に携わるなど、多方面でその才能を発揮している。4月にYouTubeで公開された自身初となるオリジナル楽曲「Like Water」では、リリックビデオの制作にも参加し、以前から自身が気になっていたという3Dアーティストのアベル・エマニュエルを起用した。

「僕のいままで好きなビジュアルの雰囲気も、“ザ・印象派”っぽいというか、光や色を柔らかく使ったものが多かったんです。デザインに関して理論的な知識はあまりないので、ポスターなどをデザインするときは、曲を聴いて感じたままの印象をカメラマンさんに伝えて、ひたすら写真を見つめながら試行錯誤しています。でも今回セザンヌの作品をたくさん見て、形や線を使ってみるとか、良い意味でもう少し大胆に試してみても良いのかなって思いました」

ふだんから気になるクリエイターやアーティストをチェックしているのは、いつかグループのCDなどでのコラボレーションにつなげたいという思いもあるという。今回のように訪れた展覧会からインスピレーションを受けることも多い。

「具体的にこの作品からインスピレーションを受けた、ということではないのですが、アート作品を見て、『このテーマにはこういう表現の仕方があったんだ』ってハッとする瞬間がすごく好きなんです。だからいろんな展覧会に行くのだと思います。今回の展覧会も感じたものがたくさんあったので、きっと今後僕がまた作品を作るときに影響を受けそうです」

INIには絵を描いているメンバーもいるが、「(池﨑)理人はiPadでめちゃくちゃ良い絵を描いているんですよ。デジタルアートなので表現のジャンルは違いますが、ぜひこの展覧会も見てみてほしいですね」

アートはここではない場所や時間への想像力を広げてくれる

そもそもアートに興味を抱いたきっかけは何だったのだろう。

「高校生のときまで中国にいたのですが、展覧会をたくさん見るようになったのは東京に来てからです。いちばん最初に見たのが、友達と行った国立新美術館のジャコメッティ展でした。それまで持っていた彫刻の印象が覆されたような気がして、アートって面白いんだなって思ったんです。あの展覧会はいまでもすごく心に残っていますね」

そこから美術に魅せられ、ひとりでも美術館に訪れるようになる。“行きつけ”になっている美術館もあるのだとか。

「美術館という空間も好きになったんです。いると落ち着くんですよね。どこか非日常的な体験ができるのも良いなって思います」

古典や近代の美術だけでなく、写真展や現代アートの展示もよく訪れる。

「現代アートはメッセージ性が強いものも多いですよね。自分がふだん暮らしていて気づかなかったこと、見逃していたこと、もしくは自分が生きている場所とは違う、別の国の文化やそこにいる人々がいま直面している社会問題を知る機会にもなります。自分の知識や社会問題に対する意識も増えるし、展示を見て、そういったことを知ることができてよかったなと感じることが多いですね」

さらに建築にも関心を寄せている。「安藤忠雄さんが好きで、建築や展示を見に行ったりしています。あとちょうど先日、SANAAさんが設計した会場(あなぶきアリーナ香川)でINIのライブがあったんです。SANAAさんが作ったコンサート会場でパフォーマンスすることってあまりないじゃないですか。密かにすごくテンションが上がっていました(笑)」

三菱一号館美術館へは今回初めて訪れたそうだが、明治時代の1894年に建てられたオフィスビルを復元した赤レンガの美術館建築は、そんな許の心も掴んだよう。

「建物自体が作品のようなものですよね。すごく素敵です」。鉄骨や鉄筋が使用されておらず、中国の長興で焼かれた230万個のレンガで作られていると聞くと、「これ全部レンガなんですか? へぇ〜すごい!」と目を丸くした。

階段の手すりに明治時代の建物の石と復元用に調達された石、異なる時代の石が両方使われていると聞き、触って確かめる

ちなみに美術館は誰かと行くよりも、ひとりでじっくり楽しみたい派。「自分のペースで回れるのが良い」と話す。いまや許にとって、アートに触れることは日々に欠かせないひとときになっている。

「息抜きというか気分転換にもなっています。忙しい日常から離れて、別の世界と触れ合える機会にもなりますし、いろんな人の感性を自分のなかに取り入れることのできる時間になっていますね。そのおかげで思考回路が広がって、自分もなんだか感性豊かになれたような気がして。

展覧会に行って作品を見るといろんな想像が広がるんです。今回のルノワールやセザンヌの作品もそうです。当時どのような流れでこの絵を描くようになったんだろう、そこにはどんな背景があったんだろう、とか想像しちゃいます。そもそも100年前の絵がちゃんと保存されて、いま僕たちの目の前に届けられている。キャンバスに塗ってある絵具だって、100年以上前のものだったりするわけですよね。それだけでもすごく素敵なことだと思うんです」

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許 豊凡(シュウ・フェンファン)

11人組グローバルボーイズグループ・INIのメンバー。中国語に加えて、日本語・英語・韓国語を操るマルチリンガル。現在、『DayDay. 』(日テレ系)に不定期レギュラー出演中。情報番組でも活躍するほか、カンテレ・フジテレビ系ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』で本格的な俳優デビューを果たす。

後藤美波

後藤美波

「Tokyo Art Beat」編集部所属。ライター・編集者。