2025年、終戦から80年という節目を迎え、全国の美術館・博物館で戦争の記憶を現代に伝える展覧会が相次いで開催されている。写真、絵画、漫画、演劇、アニメーション、そして衣服まで—多様な表現メディアを通して、過去と現在を結ぶ対話が各地で生まれている。原爆を体験した広島・長崎から、空襲を受けた東京、そして地上戦を経験した沖縄まで、それぞれの土地が持つ固有の記憶と普遍的なメッセージが交錯する注目すべき展覧会をまとめた。
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20世紀日本写真界の"巨人"である東松照明と土門拳によるふたり展。1950年代に土門が展開したリアリズム写真運動で高い評価を得た東松は、その後「占領」シリーズなど戦後日本の社会状況を題材とした斬新な作品を発表。1961年には土門との共作『Hiroshima-Nagasaki Document 1961』で長崎を撮影し、原爆に関する強烈なメッセージを提示した。本展では戦争や原爆をはじめとする日本の社会状況を見つめながら新たな表現を開拓した両者の作品を、戦後80年の節目に展覧する。
会場:土門拳写真美術館
会期:7月11日〜10月26日
終戦から80年の節目を迎え、福島県民が体験した戦争の記憶を辿る企画展が開催される。会場では軍人が家族に送った軍事郵便や従軍写真、実際に着用された軍服など、当時の生活を物語る貴重な資料が並ぶ。展示は近代の会津若松と若松連隊の歩みにも焦点を当て、地域コミュニティと軍隊の関係性を多角的に検証。戦争体験者の証言を聴く機会が失われつつあるいま、実物資料を通じた「記憶の継承」の意義を改めて問いかける展覧会となる。
会場:福島県立博物館
会期:7月19日〜9月15日
水戸市内原郷土史義勇軍資料館が「現代アート×義勇軍」という新たな記憶継承に挑む展覧会を企画。満蒙開拓青少年義勇軍として旧満州に渡った少年たちの多くが亡くなったとされる悲劇の歴史を、義勇軍隊員を祖父に持つ現代美術作家・弓指寛治が問い直す。弓指は社会や歴史の不条理を鋭く描く作品で注目を集めており、本展では故郷・三重県から送出された五十鈴義勇隊開拓団にスポットを当てた新作を展示。「被害者」であり「加害者」でもある複雑な立場を背負った元隊員たちの物語を、「不成者」というタイトルに込めて描き出す。
会場:水戸市内原郷土史義勇軍資料館
会期:8月1日〜10月26日
『夕凪の街 桜の国』『この世界の片隅に』で数々の賞を受賞したこうの史代の初の大規模原画展。30年間の漫画家人生で築き上げた独自の表現スタイルを、貴重な漫画原画500点以上で辿る。こうの作品の最大の魅力は、4コマ漫画から重厚な戦争ものまで一貫した愛らしいタッチで描きながらも、その線に宿る力強さとしなやかさである。本展では、作家が30年かけて開拓してきた「未踏の漫画表現」の全貌を、原画の筆致から読み解ける貴重な機会となる。
会場:佐倉市立美術館
会期:8月2日〜10月2日
身体性を伴う表現である演劇が戦争体験をいかに舞台化してきたかを戦後80年の演劇史を通して検証する展覧会。戦争を直接体験していない世代が演じる戦争劇の意味を問い直し、舞台写真、台本、批評などの豊富な資料を通して日本の演劇界が戦争とどう向き合ってきたかを俯瞰する。記憶の継承における演劇の特殊性と可能性を多角的に考察する挑戦的な企画なる。
会場:早稲田大学演劇博物館
会期:5月12日〜8月3日
被爆から80年の節目に写真というメディアが持つ記録性と表現力を通して広島の実相に迫る企画展。人類史上初めて都市に原子爆弾が投下された広島で、自ら被爆しながらカメラを手に原子野を歩いた者たちが残した貴重な記録を公開する。広島市民、報道機関のカメラマンや写真家による広島原爆写真と映像を展示し、敗戦直後の混乱や占領期の報道統制にあらがって撮影者が守り抜いた資料の数々が並ぶ。レポートはこちら。
会場:東京都写真美術館
会期:5月31日〜8月17日
スタジオジブリの企画協力を得た本展では、戦争体験が人生に大きな影響を与えた高畑勲監督の軌跡を振り返り、終戦80年の節目に合わせて『火垂るの墓』の新資料を含む大きなエリアを設置。高畑監督の戦争への眼差しとそれを映像化する際の細やかな演出技法を原画や絵コンテで解析。エンターテインメントと社会性を両立させた作品群がいかに幅広い層に戦争の記憶を伝える媒体として機能してきたかを探る。レポートはこちら。
会場:麻布台ヒルズ ギャラリー
会期:6月27日〜9月15日
「昭和100年」「戦後80年」を迎える節目の年に、美術が「時代を映し出す鏡」として果たしてきた役割を問い直す展覧会。同館のコレクションとアーカイヴ資料を駆使して美術に堆積した記憶を読み解き、過去から現在に至る時間の流れのなかでの人々の美意識や歴史への眼差しの変化を探る。作家の感性を介して表現された視覚的イメージから、多様な視点で歴史に迫る美術館の新たな可能性を探る意欲的な試み。節目の年だからこそ実現する、時代と美術の深い関係性を検証する貴重な機会となる。レポートはこちら。
会場:東京国立近代美術館
会期:7月15日〜10月26日
衣服という身近な物質文化を通して戦争を語る独創的な企画。国民服から戦後復興期のファッションまで衣服に刻まれた時代の証言を丁寧に読み解く。物資不足による代用品の使用、統制下での服装規定、戦後の洋装化など服飾史を通して社会変化を追体験できる。ファッションという文化的側面から戦争をとらえる新鮮な視点を提供し、身近なモノから歴史を見つめ直す貴重な機会となる。
会場:文化学園服飾博物館
会期:7月16日〜9月20日
戦争とハンセン病をめぐる日本の近代史において、戦争がハンセン病患者の隔離を強化し、隔離下の被害をより深刻にした歴史を検証する展覧会。「戦時下の療養所」「日本植民地下の療養所」「沖縄戦」などに関連する貴重な資料を展示し、これまで語られることの少なかった戦争とハンセン病の複雑な関係性を明らかにする。従軍中にハンセン病を発症し、療養所への入所を余儀なくされたハンセン病回復者の壮絶な経験も辿る。詳細はニュースをチェック。
会場:国立ハンセン病資料館
会期:7月19日〜8月31日
広島市立基町高等学校の生徒が被爆者から聞き取った記憶を「次世代と描く原爆の絵」として描く活動に着想を得た企画。戦地で過酷な体験をした岡本太郎が核をテーマに挑んだ代表作《明日の神話》とともに、現代の第一線で活躍する9組の作家による作品を展示。核の惨禍を乗り越えて明日に向かう人間像を描いた岡本作品に呼応し、現代作家たちも戦争や原爆の記憶を現代の問題として独自の視点で表現する。
会場:川崎市岡本太郎美術館
会期:7月19日〜10月19日
第二次世界大戦下で戦意高揚と軍の宣伝を目的に指名を受けた一流画家たちが制作した戦争画だが、戦後は画家仲間から「ファシズムに便乗した」として厳しい批判を浴びた。日本美術会が藤田嗣治ら8名を名指しで糾弾し活動自粛を求めるなか、藤田は「国民の義務を果たしただけ」と反論し、従軍画家としての使命を担いながらも芸術表現を研磨しようとした意気込みを見せていた。本展では、藤田が残した言葉を手がかりに、戦時下で制作された数々の作品を丁寧に読み解く。
会場:軽井沢安東美術館
会期:7月17日〜9月28日
今年90歳を迎える陶芸家・伊藤慶二の創作の現在地を紹介する展覧会。岐阜県土岐市出身で現在も同地を拠点とする伊藤は、武蔵野美術学校で油画を学んだ後、陶芸デザイナー日根野作三との出会いを通じて本格的に陶芸の道へ。人の精神、生活、社会に対する真摯なまなざしを貫く作品は、寡黙ながら確かな手触りと存在感で私たちの日常や社会の根底への思索を誘う。本展では、「HIROSHIMA」「沈黙」「尺度」「いのり」などの代表的シリーズに加え、新作インスタレーションも展示する。レポートはこちら。
会場:岐阜県現代陶芸美術館
会期:6月28日〜9月28日
マンガというポピュラーカルチャーが戦争をいかに描いてきたかを包括的に検証する企画展の第2弾。戦時中のプロパガンダマンガから現代の戦争マンガまで時代を超えた作品群を展示し、マンガが持つ大衆性と娯楽性を通して戦争記憶の大衆化プロセスを考察する。ポピュラーカルチャーとしてのマンガが社会に与える影響力と、戦争記憶の継承における意義を問い直す貴重な機会となる。
会場:京都国際マンガミュージアム
会期:7月12日〜11月25日
社会集団が繰り返してきた身振りを個人的に反復できる彫刻的装置を制作してきた大和楓。今回、沖縄戦で捕虜となり、収容所生活を経験した祖父の痕跡をたどるなかで、沖縄県公文書館の写真資料に写る人々の「姿勢」に注目する。捕虜の姿勢に自らの身体をにじり寄せることで、一時的にでもその時代に腰を下ろし、その時代の人々の「生き延びた時間」に迫る。沖縄戦から80年が経ついま、写真に写った人体の外形を軽快に反復するアプローチで、精神よりも肉体の力を信じる選択を提示する。
会場:立命館大学国際平和ミュージアム
会期:8月19日〜8月30日
写真家デビュー以来、一貫して戦後の日本を主題に撮影を続けてきた土田ヒロミ。本展では、広島平和記念資料館の被爆資料を撮影した「ヒロシマ・コレクション」をライフワークとする土田の作品を、被爆80年という節目の年に紹介する。撮影にあたり土田は、私的な解釈や情緒的な自己表現を徹底して避け、悲劇的な形象や象徴性を強調するのではなく身近な衣類や日用品など資料そのものの記録に徹している。それぞれの写真には資料にまつわる具体的なエピソードが同等のものとして添えられ、80年前の大惨事と現在の日常との連続性を浮かび上がらせる。
会場:中之島香雪美術館
会期:6月28日〜9月7日
原爆投下から80年の節目に、放射線をテーマとした3人のアーティストによるグループ展が開催される。土田ヒロミは被爆体験者のポートレイトや遺品撮影からなる「ヒロシマ三部作」、ヤノベケンジは放射線感知機能付き《アトムスーツ》でチェルノブイリを探訪した代表的プロジェクトを展示。栗林隆はスチームサウナ式のインスタレーション《元気炉》シリーズの新作を発表する。不可視のエネルギーに対する経験と記憶を、3人の表現を通じて過去から未来へのタイムラインで辿る構成となる。
会場:MOMENT Contemporary Art Center
会期:7月25日〜10月5日
従軍先で制作された作品や戦争そのものに取材した作品に加え、砂丘社や麓人会など戦時下を含む時期に鳥取県内で展開された活発で特徴的な文化活動にも焦点を当てる展覧会。戦後に制作された作品群についても、戦争体験に基づくものから戦争を遠望・俯瞰することで間接的に依拠した作品まで幅広く紹介。戦時下と戦後を横断する多角的な視点から、地域の美術活動と戦争の関係性を浮き彫りにする。
会場:鳥取県立美術館
会期:6月28日〜8月31日
戦争や原爆の記憶と美術表現の関係に光を当てる本展は、戦中・戦後の銅像やモニュメントの変遷を通じて、記憶の形成や再構成のあり方を考察する。ミュージアムやアーカイヴといった記憶にかかわる制度・媒体に注目し、現代アーティストによる試みも紹介。過去と現在の対話的なつながりを見つめ、表現を通じた記憶の継承について問い直す。館蔵の「ヒロシマ」関連作品も交え、戦争の記憶と向き合うための思索の場をひらく。レポートはこちら。
会場:広島市現代美術館
会期:6月21日〜9月15日
日本画家・平山郁夫と写真家・土田ヒロミの作品を通じて平和について考察する展覧会。土田ヒロミの「ヒロシマ・コレクション」43点では、広島平和記念資料館所蔵の被爆遺品を撮影したシリーズを展示。同作品は劇的表現を抑え、身近な衣服や日用品としての「記号性」を際立たせることで、原爆によって破壊された日常の存在を静かに訴えかける。いっぽう、平山郁夫の作品では若き日の故郷風景から、旧来手法の破壊を経て生み出された《広島生変図》まで、創作の軌跡を辿る。
会場:平山郁夫美術館
会期:7月3日〜9月17日
開館20周年と被爆80年という節目を迎える長崎県美術館による、戦争をテーマとした特別展。スペイン美術を標榜する同館は、収蔵するフランシスコ・デ・ゴヤの版画集『戦争の惨禍』を中心に据え、戦争の真の姿とその本質を問い直す。プラド美術館からゴヤの油彩画、ソフィア王妃芸術センターからスペイン内戦期に制作されたピカソの版画が出品されるほか、国内美術館が所蔵する戦争・原爆関連作品が一堂に会する。レポートはこちら。
会場:長崎県美術館
会期:7月19日〜9月7日
《原爆の図》で知られる丸木位里・俊夫妻が晩年に手がけた連作「沖縄戦の図」全14部を展示する特別企画。通常は5~7点のみ公開される作品を全て見ることができる貴重な機会となる。夫妻は81歳と70歳という高齢で沖縄戦に挑み、6年の歳月をかけて画業の集大成を完成させた。慶良間諸島から伊江島まで現地を訪ね、沖縄の人々の証言を聞き、共にモデルとなって制作された共同作品でもある。木下晋、内田あぐりら計28点の関連作品とともに、地上戦の実相と「命どぅ宝(命こそ宝)」の思いを次世代へ継承する重要な展示となる。
会場:佐喜眞美術館
会期:6月5日〜2026年1月26日